春田康吏のLogbook

ある重度身体障害者の人生航海日誌。

あの黒と黒

私が中学1年の頃です。夏休みに入る前の体育の時間にプールの授業がありました。
私が通っていた学校ではクラス単位での生徒の人数が少なかったため、
体育は複数のクラス合同で行うことがありました。
その日のプール授業も合同でした。
課題が与えられると数人の先生がプールサイドにいて、生徒たちを見守っていました。

後半になり場も何となく落ち着いてきた頃、私のクラス担当ではなかった女性教師のK先生が上着を脱ぎ出すと、突然泳ぎ出しました。
K先生は当時20代後半でしたが、先生も泳ぐのかと私は驚きました。
先生は水着は着ているものの、それは生徒に何かあったときのための救助用だと思っていたからです。
小学校のときは教師自身が泳いでいたところを見たことはありませんでした。
それが中学生になって何も起きてないのに突然、女性のK先生は泳ぎ出したのです。
1往復泳いだだけで、K先生は上がってきました。
今思えばK先生は決して美人とは言えるものではなかったものの、
当時、思春期真っ只中だった私は、K先生は若くて美人な先生だと思っていました。
先生がプールから上がる瞬間、私はプールサイドにいたので、そのとき見たK先生の真っ黒の競泳水着姿にドキドキしました。
その後の先生が気になって、ちらちら見ていると他の先生との会話が聞こえてきました。
競泳水着のK先生に向かって、一人の男性教師が言います。
「どうでした?」
「ええ、大丈夫でした」私は始め何を言っているのか分かりませんでしたが、冷たい、温かいという言葉が出てきたので、徐々にプールの水温について話しているのだということが分かってきました。
その後、そのK先生がプールに入るところを見たことはなく、また別の先生が泳いでいるところも見たことはありませんでした。

話は変わって数年後、高校のときの担任が若くして亡くなり、お葬式に参列したことがありました。
その帰り際、学校という世界も狭いのでしょう。
何と参列者の中に喪服姿のK先生がいました。
お葬式という場ということもあってか、何も言葉を交わすことなどなく、
ただ目配せをしてすれ違っただけでしたが、なぜかそのとき私は、真っ黒の喪服姿のK先生を見て、あのときのプールの授業の真っ黒な競泳水着姿のK先生を思い出したのでした。
それ以来、K先生に会ったことはなく話を聞いたこともありませんが、夏が来るたびにふと思い出すことがあります。