春田康吏のLogbook

ある重度身体障害者の人生航海日誌。

あの頃の夢は叶ったんだ

海までの道を二人で歩いていた。

その頃の僕の電動車いすは遅くて、思いっきりレバーを前に倒しても普通の人が歩くスピードにすらならなかったように思う。
ときどき停止させて手を休ませないと、きつかった。

そんな僕の様子を見て、
車いす、押そうか」と隣を歩いていた彼女は言った。
しかしその優しさを僕は、なぜか断った。
ゆっくりゆっくり、休み休み歩いて、海岸までたどり着く。

そして、二人で並んで海を見ていた。
もうすぐ夕方になろうとしていて、遠くには、海に浮かぶ空港が見えていた。
ときおり飛行機が、離発着している。

たわいもない話をしていて突然、僕は聞かれた。
「はるたくんは、夢ってある?」
今まで夢について人から聞かれたことはなかったし、
大学生の僕は、大してこれといった夢を持ち合わせていたわけではなかった。
というか、すぐに答えられる夢なんてなかった。

ましてや、同い年の女の子と二人で海を見ながら夢について聞かれる。というシチュエーションに、動揺していた。

何か答えなくちゃと思った僕は、しどろもどろになりながらも、
「大学卒業したら、とりあえず仕事したい。通えないから家で」と言った。
彼女は、興味があるでもないでもない様子で、ふーんと言った。

そして、自分自身の夢について語り始めた。
その後、少しまた二人で散歩した。

僕の在宅勤務での仕事は、1年ずつ契約更新してもらえて5年が過ぎた。
できる仕事の内容もだいぶん増えた。

あのとき、しどろもどろになりながらも答えた夢、
どこか漠然としていた夢は叶ったんだな。とふと思った。